在宅医療では訪問歯科の先生と遭遇することがあります。在宅における訪問歯科診療の役割について解説しています。
訪問歯科診療の現状
高齢になると、クリニックや病院への通院が難しくなるため、歯科の外来受診も難しくなります。
実際、75歳以上になると、受診が必要なのにも関わらず、実際に治療を受けている方は半分以下です。
さらに、要介護者で治療が必要なのにも関わらず、実際に治療を受けている方は約25%です。
厚生労働省の研究によると少し古いですが、次のような結果が報告されています。
- 歯科治療の必要性については、74.2%のものが「何らかの歯科治療が必要であり、その内容としては、補綴治療(義歯等の作製)、齲蝕治療、歯周治療の順であった。
- 実際に歯科治療を受診した者は26.9%
- 要介護者は口腔内の状況が悪化しやすく、歯科治療を必要としているケースが多いにもかかわらず、歯科治療を受診した者が少ない。
[出典:情報ネットワークを活用した行政・歯科医療機関・病院等の連携による要介護者口腔保健医療ケアシステムの開発に関する研究(平成14・15年度厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業).研究代表者:河野正司新潟大学教授)]
最近は、口腔内をキレイな状態にする、食事を摂れる状態にすることは、食事が楽しみな高齢者においてQOLを向上させることができると期待されています。
「8020運動」という80歳になっても20本以上の自分の歯を持つという運動が行われ、現在は半数以上が達成していると言われています。
しかし、実際に訪問歯科診療を行っている歯科は多くはありません。
訪問診療[往診]を行うには、車やポータブルユニットの初期投資に加え、スタッフの増員、外来を一定時間閉局するなどの弊害がでてくるためです。
この状況は、調剤薬局における在宅医療への取り組みが思っているほど進まない状況と似ていますね。
実際の歯科訪問診療の写真がコチラです↓
[H23.11.11中医協資料より]
訪問歯科医療の診療報酬において、2016年新たに医科と歯科の連携や栄養サポートチームとの連携が評価されるようになっています。
在宅医療における訪問歯科の役割
在宅の現場では他職種の方をお見掛けすることがありますが、高齢者施設の場合は、歯科の先生や歯科衛生士さんとお会いすることが増えてきています。
訪問歯科の先生のお話を聞く機会がありましたので、実際どのようなことをしているのかまとめてみました。
歯科でできること
口腔内がどうゆう状態かを観察する
- 歯周病・歯茎の腫れ・発赤・口内炎・カンジダ
- 口臭の有無、原因は何か
- 舌の汚れ、舌苔の有無
- 食べ残し、食渣がないか
- 入れ歯・義歯の汚れ、粘着剤の付着
- 歯・歯肉の汚れ
- 出血、ワーファリンなど抗凝固薬の影響がないか
口腔内の管理
- 歯が何本あるか
- 歯並びは良いか
- どこが抜けているか
- 残根はあるか
- 虫歯の有無
- ぐらぐらしてるか
- 入れ歯・義歯は入っているか
口腔内以外の観察
- 麻痺があるか
- 手足は動くかか
- 拘縮の有無
- 座位が保てるか
- 体幹保持ができるか
- 舌の運動と関連性のある首の可動状態はどうか
口腔機能の観察
- 口が大きく開くか
- 飲み込みできるか
- 食べこぼしがあるか
- ストローで吸えるか
- ぶくぶくとうがいができるか
- 舌を上下左右動かせるか
- 声が出せるか
- 喋ることができるか
在宅医療に特化した指導
在宅における訪問歯科診療では、通常の虫歯や歯周病の治療・予防に加え、次の3つの業務が主として行われています。
入れ歯の作製、修理、調整
入れ歯・義歯が合っていない場合、当たって痛かったり出血したりします。
それに伴う食事量の低下もよく在宅医療の現場では遭遇するため、速やかな義歯の作成・交換を行います。
口腔ケアで感染、誤嚥性肺炎の予防
高齢者では、嚥下反射機能が鈍っており、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
口腔内に細菌が多いと誤って肺に細菌が侵入することになります。
誤嚥防止のための口腔ケアや唾液腺マッサージ、食事内容や食事形態の指導を定期的に行います。
嚥下機能の訓練・リハビリ
在宅医療の現場では、嚥下機能の低下により固形物が食べられなかったり、細かく刻んだものしか食べられない方がいます。
食事については、本人からの希望もありますが、家族からの要望が多いように感じます。
嚥下訓練においては、言語聴覚士・理学療法士さんに加え歯科医師が介入することも期待されています。
最近受けた勉強会では、おしゃぶりを使って口腔内の筋肉を鍛える方法を教えていただきました。
これら3つの業務に加え必要に応じて、介護職向けの勉強会を行ったりと在宅医療の現場において欠かせない存在となっています。
今後は認知症患者を初めてとした要介護者がさらに増えるため、歯科治療の介入しやすい初期の認知症患者へのなるべく早い対応が求められています。